岩手大学教授故菊地政雄氏は,1956年の夏以来1967年の秋までの11年間,5月から10月までの6ヶ月の間に,毎月数日から1週間におよぶ本島への採集旅行を行って,千数百点のさく葉標本を作成してきた。そしてそれらの植物目録を準備中の1969年春に急逝された。従って,植物目録の草稿と氏が新しいタクサと考えていた,幾つかの植物に関する簡単な記載以外に書き記されたものは残されていない。氏が金華山島の植物相をどの様に解釈しようとしていたのかは必ずしも明確ではないが,26にもおよぶ裸名(5.1%)が残されていたことからも,氏が本島の植物相に並々ならぬ関心を持っていたことは確かである。
氏が準備中であった新しい学名や,幾つかの短い記載の妥当性については,今後の研究に委ねたいが,氏はこれらの植物を長年の経験から,分類学的に見て十分注目に値する植物と考えていたと思われる。
金華山島の概要,生態学・分類学の視点から注目されてきた理由および植物学の研究史については,既に須田・井上(1991)によって詳述されているのでここでは省略する。今回,当時発表された標本目録をひとつずつ丹念に採集標本に当たって調べたところ,目録への記載漏れのものや,逆に虫害等によって標本自身が原形をとどめぬ程破損しているもの,行方不明で欠落しているもの等が幾つか見出された。従ってこの度の目録は,現存するさく葉標本に基づいて改訂したもので,ここに記載されているすべての植物について,さく葉標本の検索が可能となっている。
氏が本島で採集したさく葉標本およびその目録を整理・公表して,今後の研究に資すると共に,新しい学名を準備中だった植物の裸名をそのまま残すこと(nom.
nud. と付記)で,分類上の取り扱いについて再検討の必要があることを指摘したい。
科名をクリックすると,その科に所属する採集した植物の学名と和名の一覧表が現れる。その中から目的の植物をクリックすると,複数または単数の採集データが表示される仕組みになっている。当標本室の通し番号,IUM
000 の後にその標本の保存状態を,例えば「虫害有り」などと示してある。
本データベースの作製にあったっては,日本学術振興会平成15年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費 課題番号158088)の助成を受けた。ここに記して感謝の意を表するものである。
なお,2004年8月15日に,菊地政雄氏が新しい学名を準備中だった植物,26タクサのさく葉標本の写真,計64枚を追加した。スケールはキタツルボ(IUM88)とナガホハナタデ(IUM319)にのみ示されているが,全て同じ縮尺率である。また標本の所属を示すスタンプ(英文,邦文共に)が横64 ミリ であることからもおよその大きさが分かる。
牧野富太郎 1989.「改訂増補 牧野新日本植物図鑑」 北隆館 東京
中池敏之 1982. 「新日本植物誌 シダ篇」 至文堂 東京
大井次三郎 1975.「改訂増補版 日本植物誌 顕花篇」 至文堂 東京
佐竹義輔他編 1982.「日本の野生植物 草本 I 単子葉類」 平凡社 東京
佐竹義輔他編 1982.「日本の野生植物 草本 II 離弁花類」 平凡社 東京
佐竹義輔他編 1981.「日本の野生植物 草本 III 合弁花類」 平凡社 東京
佐竹義輔他編 1989.「日本の野生植物 木本 I」 平凡社 東京
佐竹義輔他編 1989.「日本の野生植物 木本 II」 平凡社 東京
須田裕・井上幸三 1990 宮城県金華山島産,故菊地政雄教授採集の維管束植物標本目 録 岩手大学教育学部研究年報 50巻2号:21-50.
塚本洋太郎監修 1994. 「園芸植物大事典」 小学館 東京